芦原妃名子『砂時計』

事業に失敗した父の借金返済のため両親が離婚し、母の実家がある島根へと引っ越してきた植草杏、12才の冬から物語がはじまる。生まれも育ちも東京の杏にとって、家庭事情が筒抜けの田舎暮らしに抵抗があったものの、活発な地元の男の子、北村大吾に出会い、地元の名家の息子の月島藤、その妹の月島椎香と仲良くなるうちに、すこしずつ島根での生活に楽しさを見つけはじめていた。その矢先、精神的に不安定だった母が自殺してしまう――。
とても端的なことばを使うならば、自殺孤児が大人になるまでを描いたお話。でも、決して、暗い話ではない。
もともとは明るく、友だちを見つけることが上手な少女なのに、ただひとつだけ、自殺という衝撃的な失いかたをしてしまったゆえに抱える心の不安定さが、その後の人生に影響してしまう。『皆 上手にママを「過去」に変えていく』と、杏が思ったように、時間では乗り越えることができなくて、時が満ちれば何度でも、砂時計をひっくり返すように悲しい決断をしてしまう。気持ちに鍵をかけるのではなく、過去に向き合って本当に強くなれるまで、続く。

書店の文庫本コーナーを眺めていた時に、きれいな表紙の新刊が目に留まって思わずジャケ買い。それが、まさかこんなに心に刻まれる話とは思わなかった。文句なしに満点。いろいろな人に読んでほしいと思う。


砂時計 1 (小学館文庫 あK 1)

砂時計 1 (小学館文庫 あK 1)