パーフェクト ワールド(1993)

ケヴィン・コスナー主演。クリント・イーストウッド初監督。


父は洋画を好んでいたのだが、母が洋画が嫌いだったこともあり、実家のVHSには、ジブリ全作品、ドラえもん のび太の海底鬼岩城、ルパン三世 カリオストロの城、バックトゥザフューチャー1〜3という当たり障りのない映画が録画されていた。どれも今でも好きな作品だ。
ただ、水曜ロードショーの翌日の学校ではターミネータースターウォーズといった洋画たちが話題になっても、まったく観ていなくて話についていけなかった。といっても、実際にそれほど興味がなく、鼻を垂らしていたわけで、特別な苦手意識もなかったのだが。
小学6年あたりから急激に物心がつき始め、音楽や映画に興味を持ち、手当たり次第に吸収していった。当時、実家はWOWOWを契約していて、音楽はたくさんのライブやPV、映画は邦から洋まで(時にはR指定の映画も)溺れるほど観ることができる環境が整っていた。
初めて、自らの意志で、録画して観た映画が『パーフェクト ワールド』だった。とても思い入れのある映画だ。



主人公のブッチ(ケヴィン・コスナー)は、ダンスホール兼売春宿に生まれ、幼いうちに父が蒸発、8才の時に母に暴行をくわえようとした男を射殺、12才の時に母は自殺、無免許運転で捕まり少年院に4年間服役という荒れた幼少時代を過ごした。高い知能を持ち、子供(少年)や女性には優しさを見せるが、キレると手が付けられなくなる危うさを持つ。
ソリの合わない相棒とともに刑務所を脱獄し、エホバの証人の母子家庭に育つ少年フィリップを誘拐して逃避行を続けるが、フィリップに手を出そうとした相棒を射殺、ブッチの父が住むというアラスカへと向かう。旅を続けるうちにやがてフィリップはブッチに対して父親像を重ねてしまう。


犯罪者であることは間違いない。それでも根っからの悪人ではなく、歪んでいるものの正義感を持っている。わかりやすく提示された「正義」と「悪」ではなく、とても曖昧な、観る人に判断を委ねる正義と悪が描かれている。
ラストシーンは、免疫のなかったあの頃の自分にとってはあまりにも強い衝撃であり、言葉を失った。映画を観てから数日間、何度も何度も映画の内容について考えた。思い出せない細部がどうしても気になって、数日後にまた見返した。本格的な洋画を観ることも、短い期間に繰り返し同じ映画を観ることも、初めての経験だった。


おすすめの映画は、と聞かれたら、いろんな映画が思い浮かぶけれど、好きな映画は、と聞かれたとき、いつも『パーフェクト ワールド』と答えている。思い入れのある映画は特別だから。